降り続く、というより、降り籠められる、というような長い長い雨のトンネル。
一瞬、雲が途切れて青空の覗いたここ数日、空気はすっかり秋の顔に変わっていました。
まだかすかにもわりとした熱気は残っているものの、透明感が増して、なにより匂いが違います。
この季節特有の、木の実が熟すような甘い匂いがあちらこちらからふわりと...。
懐かしく大好きなこの匂いとともに、麦小舎には、内藤亜希子さんの絵がやってきました。
八ヶ岳の山麓・北杜で、パンを焼き、山に登り、絵を描くあっこさん。
私が初めてあっこさんの絵を見たのも、八ヶ岳の山並みを描いたものでした。
ブルー1色で描かれた山の稜線は、とてもシンプルでなんの華飾もない。
ただその姿は、山のふもとに暮らし、毎日山を見ている人にしか書けないものだということは、即座に感じました。
それ以来、すっかりあっこさんの描く絵のとりこになってしまい、昨年秋に自主制作したリトルプレス風(?)なもの『ANGELICA』などで、ずうずうしく、浅間山や植物をたくさん描いてもらいました。
「山ろく記」と自然。
http://mugikoya.exblog.jp/20043298/
「ANGELICA -アンジェリカ- 」
http://mugikoya.exblog.jp/21299215/
今年になって、本格的に、ふもとから山頂を目指し始めたあっこさん。
登るとなると、一気にあっちの嶺からこっちの峰へ。八ヶ岳もぜんぶ攻めてやるんだと、中途半端な試みに終わらないのが彼女らしい。
山の上でのスケッチもいくつか溜まってきたことから、意外にも初めてとなる展示をこの秋、行なえることとなり、麦小舎を皮切りに、彼女のホームグラウンドの山梨へリレーし、晩秋の鎌倉までを巡ります。
「chemin de bonheur」はギャラリーですが、その他のうちはカフェですし、「SARUYA」はゲストハウス、「books moblo」は古本屋さん… と、会場の形態もさまざま。それぞれの場にあわせて違った見え方になるのも面白いかと。
麦小舎は、壁も少なくどんな見せ方ができるだろうと不安もあったのですが、搬入日、あっこさんの考えてなさそうで考えてるようでやっぱり何も考えてないんじゃないかというインスピレーションのもとに、見事に配置。
今は、あたかもずっとそこにあったじゃないのという顔で並んでいます。
思ったより、数もあります。
その場で落書き的に忍ばせたドローイング(これぞあっこさんの真骨頂)もそこここに。(イチオシは「ネコ」ですが、これは実際に来店された方のお楽しみ。。)
オリジナルTシャツやポストカード、挿絵を手がけたCD、「山角」でも人気のクマ缶、そしてもう少ししてからの到着となりますが、今回の展示のためにあっこさんと写真家・砺波修平さんとで作った写真とドローイングのzineなど、持って帰れるグッズもあります。
約1ヶ月… といっても営業日としては10日と少しだけの展示。
常連さんにも、初めての方にも、ぜひ今だけのこの空間まるごと、楽しんでもらいたいです。
- - - - - - - - - -
… という展示のはじまりの案内を書いていたら、嬉しいニュースが飛び込んできました。
あっこさんと、デザイナーのまきちゃんと作成したZINE(のようなもの)『ANGELICA(アンジェリカ)』が、先日行なわれた「長野ADC(アートディレクターズクラブ)」による第一回審査会で、準グランプリを受賞しました!
約300点の作品の中から、トップ3にランクイン。すごいことです。
昨秋のブックニックにあわせて、作成した『ANGELICA』。(事の始まりや中身については、前述のブログにて。)
そもそもの動機は、あっこさんに浅間山麓の風景を描いてもらいたい、という個人的なわがままから。
とにかくあのときは、今、見えている景色と、記憶のなかにあるこの土地の風景を、なにがなんでも描き残しておいてもらいたいという衝動に駆られました。
そんな動機からもわかるように、ひどく個人的な内容に偏っているし、題材は地味だし、それぞれの絵や文章は綴じられもせずバラバラ。冊子です、とも紹介もできない曖昧な形で、おまけに数も少部数しか刷れなかったため、まともな販促もしないまま…。
お店に並べていてもそれほど反応もなく、不憫な存在。
(一部、面白がってくれる友人たちからは褒めてもらえたり、店に置いてもらえたりという反響があり、それで十分嬉しくもあり。)
ただ、なにしろあっこさんの絵の一枚一枚は見れば見るほどすばらしく、その素材をあえて無造作に飾り気なしにまとめてくれたまきちゃんのデザイン力(+手仕事の技も実はたくさん…)も文句ナシにかっこよく、ひとつの作品として他にはないものが出来たという自負はありました。
そんな『ANGELICA』が、今回、受賞というかたちで評価を受けたことは、ほんとうに嬉しい!
まきちゃん、おめでとう!
あっこさん、ありがとう!
講評で、「時間をかけて見ていくうちに魅力が深まった」と言ってもらえたそうで、それはまた格別に嬉しい。
流れ作業のような仕事に慣れ、一般受けしやすいものを無意識に選び、しゃちこばった規格のなかでもぞもぞやってしまいがちな自分にとって、ふたりとの流れのままに新しいことに自然と手を出し、ウケも考えず、「型」から少し自由になってみる、という経験ができたこの「ANGELICA」。
誇らしく、愛おしい存在です。
「ON THE GROUND」の期間中、こちらの原画も(これまた無造作に)展示、zine本体も少数ですが販売しています。
よかったら、手に取って、ご覧ください。