本の街、神保町へ。
久しぶりの神保町は、地下鉄の出口から出るなり古い紙の匂いがぷんぷんしてくるようで、一気にアドレナリンが沸き立つのですが、この日はのんびり古本ハンティングとはいきません。
駆け足で数店覗いた足で向かった先は「東京古書会館」。
いつもお世話になっているSさん夫妻の計らいで、プロの古書店主たちが集まり、売り買いを行なう「市場」を見学させて頂けることになったのです。
入口で手続きをして、「この先、一般者立ち入り禁止」の格子戸の先へ、恐る恐る入場....。
そこには、すでにこの日、各店から持ち込まれた本が、束になって天井につかんばかりに堆く積み上げられています。その山々をひとつひとつ検分しながら、所定のルールのもとに「入札」が行なわれ、決まった時間になると順次「開札」が始まります。
独特の世界なため詳細については触れませんが、まったく素人の私たちにとっては見るもの聞くものすべてが新鮮で、本の山やプロの方たちの動きをウロチョロ、キョロキョロ眺めてしまいました。(明らかにその場で浮いていたと思います。真剣勝負の皆さんのなかで、失礼イタシマシタ。)
伝統と格式ある古書組合の、それも全国数あるうちの中枢ともいえる場所。
想像していたのは、荒々しく怒号が飛び交ったり、あるいはむっつり睨み合いをきかせたり...と緊張感たっぷりなイメージだったのですが、実際にはそんなことはなく、参加する古書店主の方々も係の人たちも穏やかで親切、見慣れない私たちに声をかけてくれたり、とても紳士的で和やか。(それでもやはり圧倒的にオジサマ率の高い男社会ではあります。)
ただその和やかさのなかにも、もちろん「勝負」ですから、駆け引きがあったり、ここぞという時を狙って大勝負に出たり。一度や二度、覗いただけではわからない、奥の深い世界であることも痛感。
でもこの日、一番印象に残ったのは「それにしてもここにいる人みんな、なんだってこんな本好きなんだろう」ということ。
当たり前といや当たり前なのですが、でもたとえば、所詮、本は取り扱う「商品」にすぎない、儲けるためには手段を選ばず、という人がいたっておかしくないと思うのです。事実、その他の業界ではそういうこと(自分の取り扱う商品イコール自分の好きなモノとは限らない)だってよくあります。
それなのに、ここに集う人たちは、儲けはもちろん大事だけれど、何かもっとそこを超越したところに悦びや誇りを感じているみたい。本を見つめる目が、手塩にかけて育てた野菜や、粘りに粘って釣り上げた大物の魚だとか、そんな生き物たちを見るような目なのです。
同じ一冊の本が、ある人にとっては垂涎モノの宝物になったり、ある人には石コロでしかなかったり。そんなところも古本の不思議さであり面白さであり。
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これまでのんきに、偶然の出会いだけを楽しみに歩いてきた古書の森。
今回初めて、これまでとは違う細くて長そうな洞窟の入口に、足を踏み入れてしまいました...。
奥は薄暗いけれど、ところどころでチカチカ眩しい光も灯ってる.....。
今ならまだ引き返すこともできるけれど__
さぁて、どうする、私たち?
駆け足の古書店覗きで出会えた、大好きなアロワ・カリジェの絵本。初版ですが状態も良くって大満足。カリジェが描くスイスの山の風景は、何度も手にして開きたくなります。
相方は相方で、あらゆる釣りのための仕掛けの作り方が載った1冊をgetして、ニヤニヤと撫で回していました。
あぁ、これだから古本探しは止められない....。