数日前、届いたお手紙の封を切ったら、どんぐりがコロンと一粒。
ブックニックの製本ワークショップに参加された方からのお手紙。
製本という手しごとを体験してみての驚きと楽しさ、初めて麦小舎を訪ねたことの感想が、便箋いっぱいに丁寧に綴られていました。
先生をしてくださった本間さんの丹念な仕事に触れながら、
「本のこと、本が生まれるまでに関わってきた人たちの世界、手づくりのものをもっともっと大事にしようと思った一日だった」と。
同じ頃、「東北銘菓フェス」出張企画を一緒に行なってくれたSさんからも、山盛りの美味しいベーグル詰め合わせと一緒にお手紙が届きました。
北軽井沢の秋の風景をあれからも思い出してくれていること。
震災後しばらく本を読む気になれずにいたけれど、ここに滞在している間に久しぶりに本が読みたくなったこと。
棚から数冊手に取って読みながら、「本っておもしろいな、いいものだなとあらためて感じましたよ」と。
はからずも同時に届いた2通のお手紙を読んで、お腹の底からふぅーーー、と、大きな息が出ました。
(そのときに、しばらく深呼吸を忘れていたことにも気づきました。)
2週間前、ブックニックという9日間のイベントを終えたとき、安堵と一緒に襲ってきたのは達成感や満足感ではなく、うまくいかなかったこと、できなかったこと、それに対しての自分自身への悔しさや不甲斐なさ、やるせなさみたいなものがごちゃまぜになった気持ちでした。
最も大きな理由は、賑わいを期待していた最終週末の客足が芳しくなかったこと。
自分たちだけのことならよかったのですが、ブックマルシェ出店など関わってもらった方たちへの、わざわざ来て頂いたのに申し訳なかったなという思いがいちばんに立ってしまい、頭がすべてそちらに傾いてしまいました。
(twitterをフォローして下さっている方には、そのあたりの気持ちの吐露が丸見えになってしまいました。恥ずかしいことです。)
それからしばらく、お祭りのあとのぼんやりした感覚と一緒に、なんとなくもやもやと割り切れない思いを引きずっていたところに、お手紙をいただいた。
何を勘違いしていたのだろう。
と、今になって思います。
なんのために「ブックニック」というイベントをやろうとしたのか。
いつしか、イベントの成功=集客数、といった架空の定義にとらわれて、大事なところを見失うところでした。
もちろんイベントを行うからにはある程度のお客様を集めて来ないと成り立たないのも事実です。
その意味では、この場所は、行きたいと思ってくれても気軽にぽんと出かけられる場所でもなく、東京やその他の都市で行なう場合と同じような想定でという訳にはいかず、数を見込んでのイベント企画はいつも苦労や心配がともないます。
でも、「ブックニック」が目指したのは、大勢のひとが集まってわいわいやるお祭りごとではなかったはず。
おおらかな自然のなかで「本」といろいろな角度から触れ合ってみることで、それまで知らなかった(または忘れていた)本の持つ魅力や愉しみ方に気づいてもらえたら...。
そして、北軽井沢という場所を知らないひとには、実際に足を運んでもらって、秋の美しい風景を見て、写真には写らない空気や匂いまでを感じて、またいつか訪ねたいと思ってもらえたら...。
そもそもは、そんな願いを込めて、小さくとも自分たちでできることをやってみようと思ったことなのでした。
そう思って振り返ってみたら、9日間、“本とその周辺”には、それぞれに本と親しむたくさんのちょっといい光景がありました。
憧れのひと、佐野洋子さんの原画は、北軽井沢という場所で展示をできたことで、より親密に近しいものに感じられ、訪れたひともじっくりと時間をかけて、それぞれの「ヨーコさん」と対話をしながら鑑賞しているようでした。
谷川俊太郎さんと長嶋有さんのお話は、北軽井沢への愛情たっぷり、まさにこの場所ならではのプライベートトーク。おふたりの交わす言葉に、お客さんの熱や興奮が加わって、麦小舎の店内は今までに感じたことのないような独特のアツい雰囲気に包まれました。
「新しい楽しみを発見するワークショップ」「おいしいごはん」「うつくしい音楽」という、個人的に大好きなモノをぎゅうっと凝縮しておこなった秘密のピクニックは、最高のピクニック日和となった秋の森で、手伝ってくれたお仲間のおかげで、キラキラした笑顔の絶えない一日となりました。
東北各地から届いた、地域を愛するひとたちの「手」から発信された本たちは、東北という地の奥深い骨太な魅力と、ローカル性を大事にしながらゆたかに暮らすことのヒントを教えてくれました。
そして、本の傍らで味わった銘菓やお茶のひとつひとつにも、古くから人々のそばで愛されてきたそれぞれの物語がありました。
その日、その場所にしかない風景を描きとめたバラバラの紙の一片一片を、針と糸を使って自分の手で一冊の「本」という形に仕立てる。製本という手仕事に、「本」が持つ、昔も今もきっとこの先も変わらない身体的な魅力と可能性を感じました。
そして、森のなかに、市場のように立ち並んだ個性ゆたかな本屋さんたち。本を買うための場所は大手の新刊チェーン書店やBOOKOFFだけじゃない!「本と人が出合う場」をさまざまな形で創造しつづける新しい「個書店」の姿にわくわくしながら、純粋にブックハンティングする愉しみを与えてもらったブックマルシェ。
告知や準備面での足りないところももちろんあったけれど、なかなかに濃い、好きなひとには堪らないユニークな「本好きのためのピクニック」が開催できたのではないかと思います。
そして、同時にわたしがもう1つ勘違いしていたこと。
それは、このイベントを行ったのは「わたしたち」ではないということです。
それぞれの企画の実現に有形無形に協力してくれたたくさんの方の心添えがあって、なんとか形にすることができました。
(一瞬、それすらも頭から飛んでしまって愚痴めいたことを言ってしまって、ほんとうに恥ずかしいです。そこをビシッと指摘してくれた友にも感謝。)
今回、事前にこちらから協力をお願いしたすべての方からの賛同と協力をいただくことができました。
この場を借りてあらためて感謝を申し上げたいと思います。
期待に応える内容にできたかどうかは心配も残りますが、ただ、温かい心が、ほんとうに大きな励みになりました。
その恩に報いるためには、これからも、この「ブックニック」という企画を、小さくともこつこつ、心を込めて続けていくことではないかと思っています。
自然のなかで本と触れ合うこと。
そこにどんな意味があるのか、ほんとうのところはわたしたちもまだまだ模索中です。
でもだからこそ、そこにある「うっすらと気持ちよくて、なんだかとても大切なことが隠れているような気がする何か」を、わたしたちももう少し追いかけてみたいと思っていますし、冒頭のお手紙にあったようななにかしらの喜びを、たとえ少数の人でも感じてもらうことができるのなら、続ける価値のあることだと考えています。
今回の「ブックニック」の内容と記録については、こちらにまとめておりますので、よろしければご覧ください。
http://book-nick.mugikoya.com/?cat=3
そして、次回(おそらく来年の同じ頃)も、ぜひ会場の北軽井沢まで足を運んでみてください!
今度は、集客にこだわらず、もっともっとマニアックな感じにしてもいいかもしれないな(笑)。
実は、早くも来年のブックニックに関して、外部から面白いお話が舞いこんでも来ています。(きっと続けているとこういう楽しみも増えてくるのでしょう。)
こちらもじっくりと膨らませていこうと思います。
個人的にはこのイベントを終えてから、北軽井沢という場所の持つ不思議な魅力への興味がさらに高まって、これをなんとかカタチにして伝えることができないか、と、久しぶりにムラムラと「編集熱」が盛り上がってきているところ。
たとえば次号の「フォレミ」などで、どうにか表せないかなあ。。。などとブツブツブツ。。。(まだ独り言です!)