今年のカフェの営業も明日からの週末と翌週の3連休を残すのみ。
たまには、お店の商品の紹介をしてみましょう。
Book-nick から継続して展示を行なっている「
東北ブックコンテナ」も、ご覧いただけるのは残り2週となりました。
ふだんはなかなかこちらの一般書店では手に入らない、東北初の書籍・小冊子などが並び、この機会にぜひ実物を手に取ってご覧いただきたいと思っているのですが、その中からとりわけお薦めの一冊を。
岩手・盛岡のミニコミ誌「てくり」別冊、先月発行されたばかりの
「いわてのうるし」。
岩手の手仕事のひとつ、漆(漆器)について、作り手、使い手、それぞれの目線から、うるしについて詳しくない人にもわかりやすくまとめたもの。
初め、何気なくパラパラとページをめくったときには、写真がきれいだなぁ、特に料理の写真が美味しそうだなあ、などと眺めていたのですが、腰を据えて文章をじっくり読み始めてみたら、ぐいぐい、力強く「うるしの世界」に引っ張り込まれました。
漆器は、日本の伝統的な工芸品でありながら、陶器などと較べるとどうしても敷居が高く、遠い存在になりがちです。
その理由のひとつが価格。お椀ひとつで1万を超えてしまうとなると、気軽に選べず、またその善し悪しの違いもよくわかりません。
かくいう私もまだ「my漆器」と呼べる器とは出会えていません。
漆器とほかの工芸品との大きな違い。それは「ひとりの職人さん・作家さんの手だけでは作れないもの」というところではないでしょうか。
以前、長野で漆器を作る作家さんを取材したとき、初めてその行程を教えてもらって、気の遠くなるような過程に衝撃を受けました。
まず漆を掻く(ウルシの木から漆液を採る)ひとがいる。それから「木地師」(木で形をつくるひと)がいる。そして漆を塗る「塗師」がいる。
ウルシの液だって年中好きな時に採れるわけではない。自然のサイクルに添って貴重な液を大切に採る。
木の器もしっかり乾燥させたものでなければ木挽きができない。
仕上げの漆塗りも、何回も重ね塗りしなければツヤと強度が生まれない。
ひとつの器を完成させるまでにこれだけの時間と人の手間がかかる工芸技術は他にないのではないでしょうか。
そのためにある程度の価格になってしまうことは当然のことと言えます。
この本では、それぞれの過程の職人さんに密着して仕事ぶりを紹介していますが、どなたも素晴らしくいい顔をしています。
“女を抱くような気持ちで”ウルシに接するという漆掻き名人から、塗師になって2年目という若い女性職人(うるし女子=うる女!)まで。
森で、工房で、じっくり漆と向き合う人たちの姿を、写真と文章がとても丁寧に掘り下げていて。
あぁ、この人たちが手がけたものを見てみたいなぁ、と素直に興味がそそられてしまいます。
それぞれの方の漆に向ける情熱的なお話に胸がじーんとなったところで、最後には「自分たちだけのオリジナル漆器を作ってみましょう」というプロジェクトに。
この、漆器のある美味しい日常の光景でふっと目を引かせて、徐々に物づくりの真髄に迫り、最後には「うぅ、わたしもわたしだけの漆器がほしい〜」と思わせるまでの流れ(つまりは「編集」の技)が見事で、わたしはついそちらに嫉妬を憶えてしまうほど...(笑)
そんな裏読みはさておき、一冊読み終えたときには、もうすでに私の手にほっくりとまあるく収まる、まだ見ぬわたしだけのMy漆器が手触りとして感じられるほどに、ウルシファンになってしまいました。
小さな器ひとつに込められた、関わる人々の知恵や誇りや時にはド根性を知ることで、今まで遠くに感じていたモノがぐっと身近に感じられ、使うことがより一層楽しみになる。
伝統的な物づくりについて紹介する本はそれこそゴマンとありますが、この「いわてのうるし」という本には、ヘンな押しつけや強要(こんなにイイモノなんだから使いたまえっ!というような... )がなく、それまで知らなかったことへのスイッチをポンと押して目の前に楽しいことがひとつ増えた、という自然な悦びを読み手に与えてくれるような気がします。
それはきっと、本の作り手である「まちの編集室」の人たちが、わたしたちと同じ立ち位置で「知らなかった世界を覗いてみたい!」というシンプルな好奇心で取材などを続けて行ったからではないか、と想像しています。
コンパクトながら読みでのあるとってもよい本です!
ブックコンテナ商品として在庫が残り数冊となっていますので、どうぞご覧ください。
そして、わたしのように読み終わってMy漆器への欲望が膨らんでしまったひとには、この本の出版記念を兼ねたこんなイベントもありますよ!
「いわてのうるし展」
≪日時≫ 2012年11月21日(水)〜25日(日)
≪場所≫ cafe Hi-famiglia(三鷹市)/器と道具 つみ草(武蔵野市)
http://www.tekuri.net/event.html
プロジェクトから生まれた「まるんといわて椀」をはじめ器の販売のほか、トークや実演もあり、岩手の編集室のみなさんもやってきます!
わたしはあいにくこの期間中伺うことは難しそうですが、近郊の方はぜひ!
わたしのこのムズムズした「ウルシ欲」は、実際に盛岡を訪ねたときにバシッと晴らすことができるよう、まずは貯金をしようかな....(笑)
他にも個性豊かに、まだ見ぬ東北のオモシロさが詰めこまれた「東北ブックコンテナ」。
軽井沢に“停車中”の間に、どうぞ隅々までご覧ください。
お待ちしております!