
週末3日間は東京へ。
ちょっと緊張する打合せやお世話になってる方へのご挨拶、
友人が始めたお店の半年遅れの陣中見舞いや、
甥っ子の1ヶ月遅れの誕生日プレゼントを渡すため、などなど。
いつもながら詰め込みすぎのスケジュール。
くわえて東京は春が来たかのような暖かさ(当社比)。
地下鉄の階段をキャリーケースを抱えて上り下りするたびに、
汗だくになったり、目眩を憶えたり、足をもつらせたりしながら、
行きたい場所に行って、会いたい人に会うミッションを遂行し、
今はまた、あの賑やかさが嘘のような静かなお山の裾野に戻りました。
こちらも寒波は小休止してくれていたようで、あらかたの雪は融けて
視覚的にちょっと肩の力が解れます。
往路は在来線を乗り継いで4時間かけての道行き。
この「4時間」という時間の厚みが、山と都の実質的な距離感を
表しているなあと、あらためて実感。
イチョウの葉がまだ黄色く、枝に残っていることに驚いたり。
駆け足の合間に立ち寄った表参道で巡った展示のこと。
どれも素晴らしいものだったので、展示期間が残されているうちに
紹介させてください。
表参道交差点脇の「山陽堂書店」では、
「
夏葉社」というたったひとりの出版社さんの本、
「さよならのあとで」のイラスト展。
大切なひとの「死」を乗り越えるための詩に添えられた
イラストレーター高橋和枝さんのモノクロの絵。
「死は悲しいことではないよ」と書かれれば書かれるほどやっぱり
死は悲しいことに思えてしまうのだけれど、どこにでもあるちょっとした
幸せな記憶を描いたイラストがあることで、悲しみの高い壁に
そっと梯子が立てかけられたみたいで。
いつかこの本(テキストとイラスト)に支えられる日がくるんだと思う。
この日は、同じく「夏葉社」から刊行されたばかりの「冬の本」を買う。
「冬の本」を買うならここで買いたいと思っていたからすっきりした気持ち。
「冬の本」はこれからの日々の愉しみに。
□山陽堂・夏葉社企画展「さよならのあとで」
於:
山陽堂書店ギャラリー 12/21(金)まで

UTRECHT / NOW IDeA 。マンションのベランダ部分に無造作に
建てられた小屋では、写真家・吉楽洋平さんの「とり。」展。
(この小屋の「無造作」感には激しい親近感・既視感を憶えるものなり!)
鳥の写真展といっても、実物の鳥が被写体にはあらず。
フィクションとノンフィクションが絡まったような作品自体の魅力は
ぜひ実物を見て体感してもらうとして、この展示の愉快なところは
作品の「まわり」にあります。
ベランダの向こうにある大きな木に集まるホンモノの鳥たち。
スズメや鳩など都会の鳥が、果実みたいに枝にぶらさがりながら大合唱。
おもわず口をあんぐり開けて、都会のポケットみたいな空を見上げてしまう。
鳥の絵を切り取った写真が飾られた空間のまわりに集まる実物の鳥。
マザーグースの世界みたいな不思議なあべこべ感。見モノです。
□吉楽洋平「とり。」展
於:
UTRECHT / NOW IDeA 12/23(日)まで

「DEE'S HALL」では彫刻家・前川秀樹さんの像刻展。
一度実物を見てみたいと思っていた作品にタイミングよく会うことができ、
そしてそれは想像以上の衝撃となり、あれから数日が過ぎて、
こちらに戻ってきてからでさえ、思い出すと頭の隅がジンジン痺れてくるほど。
というより、この寂しい冬景色の森に帰ってきてから、なおさら、
作品が、近く、深く、おおげさに言えばちょっと痛みをともないながら
内部に迫って来るような感じ。しんしんと。ギリギリと。
頭に鹿の角をたずさえたひと。
雲のなかに頭さえ消し飛ばされてしまったひと。
孤独で行き場のない、唐突すぎるほど大きなオオカミ。
幾体ものことばをもたないひととケモノたち。
いのちをまっとうした木片が削り出されてもう一度何か伝えようとしている。
それは前川さんという人の手を借りながらだけれど
もっと大きなものがそこに乗り移っているんじゃないか、なんて
勝手に思ってしまった。寒気のような武者震いのような震えがきた。
前川さんご本人が会場にいらしたけれど、その場で伝える言葉が見つからず
ただありがとうございます、と御礼を言って、会場を出る。
震える手と震える足で。
前川さんの物語集「Zuhre」を買い求める。
敬愛する編集者・丹治史彦さん(
信陽堂編集室)が作られた
開くのがためらわれるほどに美しい本。
なるべく気持ちがしんとしている時に開きたいなあと思っている。
(今のように腹立ちまぎれのザワザワした心持ちではない時に。)
□前川秀樹・像刻展「漂泊の森」
於:
DEE'S HALL 12/20(木)まで
徒歩10分圏内で巡れるのでぜひ。
表参道は何年ぶりだったかなあ。
大学時代のアルバイトに始まり、社会人になってからも
どうしてか縁あって付かず離れず足掛け10年近く通った街。
路地の曲がり角を曲がったらひょいっと忘れてた思い出が蘇ったりして
寒い日でもないのに、鼻の奥がツンとしたり。
そういえば、季節に関係なく通り過ぎていたはずなのに、
この街につきまとう印象はいつだって冬だ。
(イルミネーションのあるなしに関わらず。)
今回は文字どおり駆け足だったので、
今度はゆっくり20年前、10年前に歩いた道を、逆方向に歩いてみよう。