近頃のわたしは、白昼、夢遊病者(または徘徊老人)と化しています。
外があまりにも気持ちがよいので、ふらふらと用もないのにオモテに出て、気づくとそのまま数十分、惚けて座り込んでいたりします。
近所の方から、あそこの奥さん大丈夫か、と噂されているかもしれません。
ここ1週間〜10日ほどで、目に見える世界(といっても庭を中心に数百メートルのことですが)が激変しました。
二度と目覚めない枯れ木のようだった木の枝から、豆粒のような芽が顔を出し、2〜3日もすればしっかり葉っぱとしてもりもり膨らんでいきます。
あちらの梢にも、こちらの枝先からも、見慣れた葉の形をして、でもその色は去年の夏の終わりの時点で見たような深い緑ではなく、フレッシュグリーンという言葉がぴったりのみずみずしい若草色で。
下から見上げると、樹種ごとに少しずつトーンの違う黄緑色の葉が、青空と日光を透かしながら重なりあってそよ風に揺れているのを見るだけで、天国に来たかのようにうっとりしてしまう。きっと口も半開きです。
その眩しい黄緑の枝先から聞こえる鳥の歌声も、日増しに賑やかになってきました。
常連のシジュウカラ軍団に加えて、美声のウグイス、先週から仲間入りしたカッコウ、高い梢からコガラ。
まだまだ葉の密度も薄いので、枝先でとまっている姿もよく見えて、双眼鏡を手に追いかけ始めたら、こちらも時間を忘れてしまいます。
つい先日までいっさい色のなかった(先月の今頃は雪に埋もれていたのですから!)庭にも、山桜がはらはら散るのを合図に、レンギョウ、ユキヤナギ、ヤマブキ、サクラソウ、スミレ、ヤブイチゲが一斉に花開き、散歩に出ればツツジやサツキ、ライラックにも出会います。
そして、予想より早く、春の花でいちばん好きなコナシも、2〜3日前から咲き始めました。
葉と同時に膨らむピンクの玉のような蕾が、リンゴや杏のように枝なりにびっしり並んで、やがて枝先のほうから中心がピンクで花びらは真っ白な可憐な花をつけるコナシ。
桜やリンゴよりも華やかで、遠くから見れば木全体がウェディングドレスを着た純白の花嫁さんのよう。
桜の頃はまだ気温も不安定で、両手を広げて喜ぶにはまだ早い。コナシが咲いて、ようやく山の春を実感することができます。
コナシはズミとも呼ばれ、荒れた土地にも強いため、火山のまわりに多く植生する、となにかで読みました。
きっと今から1週間から10日くらい。軽井沢から北軽井沢へ来ることがあれば、この土地ならではのたわわに真っ白に咲く花を探してみてください。ほんとうに美しいですよ。
とにかく、この5月後半から梅雨に入るまでの浅間山麓のまばゆさといったら、書く手が追いつかないほど。
追いつかない、というより、描写しきれないことに嫌気がさして、ただもう、冒頭に書いたようにウロウロと徘徊して、溜息をつきながら見惚れることしかできません。
画面が白黒一色からいきなり総天然色に切り替わったようなものなので、目がチカチカしてしまい、おまけに「もったいないもったいない」とあれもこれも目に収めようとしてしまうので、夜には瞼も重く、クタクタになってしまいます。
これもある種の「五月病」なのかしら!
新緑は毎年同じように訪れるものなのに、年々心にひたひたと迫るくらい美しく感じてしまうのは、年のせいなのか、冬の厳しさが「生活者」として徐々に堪えてきたからなのか...。
あの泣きたいような冬の日々を越えてきたのだから!という贔屓目のフィルタが多少はかかっているのは確かですが、それなしにも文句ナシに誇りたい新緑の北軽井沢の美しさ。
独り占めするのはあんまりもったいないので、ドライブがてら味わいに来て頂きたいです!