先週末。
嬉しい偶然が重なって、とんでもなくラッキーなことが起きた。
長年、憧れ続けてきた出版社の、ある雑誌づくりに、ほんの少しだけど、お手伝いさせてもらえることに。
今でも、信じられないくらい、嬉しくて、顔がにやけてしまう。
その、新しい雑誌に出会ったのは、半年前。
私の住む、こんな山奥のとある場所に、突如「編集室」が現れた。
ローカルな情報誌とかでなく、今年、創立60周年を迎える、日本を代表する大御所出版社の分室ということだけでも驚くのに、さらにビックリなのは、それが軽井沢と長野を結ぶローカル電車の小さな駅の、駅舎のなかに出来たこと。
「夏の一時以外、無人となってしまう、この木造の駅舎が、愛しくて仕方なかったのよ」
と、編集長のNさんが、話してくれる。
ニュースを聞いてから、ずっとずっと訪ねてみたかったその部屋に、とうとうお邪魔した。
ギシギシ音をさせながら開く引き戸や、年月を経て飴色になった柱や梁。古めかしくて重たそうな金庫や、壁にかけられた額縁。
使用するにあたって、手は加えられたものの、これまでの歴史の面影を残すしつらえは、そこここに残されている。
編集室の隣には、土間になった台所と、奥には6畳ほどの和室。なんと、N編集長は、今そこで寝泊まりもされている。
お湯の沸くシュンシュンという音以外、なにも聞こえなかった室内に、プルルルルとチャイムのような音。
なんだろう、と思っていると、それから3分くらいして、列車がすぐ目の前のホームに入って来る。
あずき色の列車は2両編成で、乗っている人もまばら。
今度は違う発車のベルが鳴り、列車はゴトンゴトンと大儀そうな音をたて、窓ガラスを振わせながら、出て行く。
始めに聞こえたのは、列車が到着しますよ、という合図らしい。
「かわいいでしょ。上下線あわせても1時間に1本くるかこないかだから、ちっともうるさくはないし、かえって嬉しくなって見にいっちゃったりするの」と、Nさんはニッコリ。
と思いきや、次にはおじさんがひょっこり顔を出し、「すみませ〜ん、時刻表とか貰えるんでしょうか〜」。
Nさんは、ごめんなさい、と頭を下げながら、丁寧にここが編集室であることを説明する。
毎日毎日、こうして不意のお客さんにも、同じように接していらっしゃるんだろうな。
交わされる会話も、みんなのんびり。ここでは、時間の流れ方が、ひときわゆっくりしている。
私の知ってるどこかの編集室とは、大違いだ...(笑)。
Nさんの上司にあたる、この出版社の前社長O女史は、戦争中、防空壕に隠れながら、「戦争が終わったら、女性の暮らしを楽しくする雑誌を作ろう」と、心に決めていたという。
その強い想いが、やがて名パートナーとなる、イラストレーターでありコピーライター、編集マンでもあるH氏と出会い、戦後史上、もっともたくさんの「奥さん」に読まれ、愛された、雑誌を作り上げてきた。
「H氏の口癖は『人のやらないことを、やれ』だったそうです。列車での旅もお好きだったようだし、だから今回の思いつきのことは、きっと喜んでくれるのじゃないかしら...」
貴重な、創刊号はじめ初期の号を見せてもらいながら、Nさんはそんなエピソードも教えてくれた。
その偉大な「先輩雑誌」を背景に、動きだしたばかりの新しい本。
表紙裏に書かれたメッセージを、ここに引用させてもらう。
モノがあふれ、便利になった暮らしのなかで
ふと、立ち止まることがあります。
このスピード、この煩雑、この国の未来...
それらを想うとき、胸をかすめる一抹の不安。
今、私たちが大切にしなくてはならないものは何?
私たちの心が探している、その何かへの手がかりを
皆さまとともにつかんでいきたいと思います。
東京から北軽井沢への移住を決めた2年前。
周囲のみんなに「なぜ?」「どうして?」と聞かれたときに、うまく返すことができなかった「答え」のヒントが、ここにあるように、思った。
なにか突飛なことを提案したり、押し付けたりするのではなく、普段通りの毎日を、ただ、今より、もう少し謙虚に、丁寧に、暮らしてみませんか。
そんな作り手の想いが、派手な装飾のない、(また当然、一切の広告のない、)シンプルで美しい誌面から感じ取れる。
私が訪問の約束をしていた日、編集長は逆に北軽へ。
取材を予定している、ある一家との打ち合わせのためだったが、この家族がなんと私たち夫婦のお友達! 相方の勤め先を通じて仲良くさせて頂いているYファミリーだった。
そんなところから、あらあら、まあまあ、と話が進み、「じゃあ、ちょっとやってもらおうか」という流れに。
人と人との繋がりから生まれた、嬉しいハプニング。
ありがたいような、恐れ多いような、複雑な気持ちで胸がいっぱいになる。
素敵な人との出会い、思いがけない出来事は、自分へのパワーになる。
春。幸先のよいスタートと、なればいいな。
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(過去にも
紹介記事を書いています。)