最終目的地は、陶芸の里、益子。
一度は訪ねてみたい、と思っていたので、「どちらでも...」という相方を説き伏せ、宿泊の手配もし、器に詳しいお知り合いにアドバイスを貰い、準備万端乗りこんだ、、、はずが、町に着いたのは3時過ぎだったにも関わらず雨のために夜のような暗さ。右も左もわからないまま、しばらく心細く町を彷徨う。
おまけにタイミングの悪いことには、ちょうど秋の陶器市を来週に控え、それぞれのお店はほぼ開店休業状態で準備にいそしんでいる様子。第一印象はちょっと寂しいものに。。。
いったん宿泊先に荷物を置き、あらためて夕暮れの町へ。
最近、ここをテーマに一冊の本も書かれたギャラリー&カフェ「
STARNET」を覗く。選び抜かれた器たちがピカピカに並ぶ。少し敷居は高く感じられるけれど、一つ一つはめちゃくちゃ高額ということでもない。ギフト選びなどに近くにあったら嬉しいだろうな。
器やさんではないけれど、相方ともども食いついてしまったのが、骨董品の「
道具屋」。店内所狭しとモノがあふれかえっている。古箪笥からビクター犬から巨大なそろばんやら試験管やら。昔の民家の建具や、ナショナルの古いデスクランプなどに、たいそう惹かれる。
宿泊先がB&Bだったため、夕食は自然食の「
ジャムラウンジ」へ。土間に土壁、至るところから下がるヒョウタンランプ。軽井沢近辺には無いエキゾチックな雰囲気の店。穀物と野菜を中心に、調味料までオーガニックにこだわったメニュー。大きな平皿にサラダやフライ、里芋あんかけなど数種類が盛られたワンプレートは、目にも可愛らしく美味しかった。
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宿泊先に選んだ「
ペンション益子SIGHT」。
特に時間をかけて探した訳ではなく、いくつかネット検索しながら、直感で選んだのだけれど、ここが大正解。
町はずれの小高い丘に建つ、ピラミッドのような三角形の建物。小さな看板やオブジェのひとつひとつに、センスの良さが滲み出る。
ダイニングに囲炉裏テーブルのあるラウンジ、本棚にはそそられる本がぎっしり。部屋はオーソドックスなツインタイプだが、手作りの木の家具やソファーやクッションの布使いがさらりとオシャレ。
そしてそして、ここでの一番のお楽しみは朝ごはん! 益子の作家さんによる器づかいも見事。盛られたお料理も、土地のお野菜ふんだんサラダ、お友だちが作られているというハーブの効いた鶏のソーセージ、キッシュ、ジャーマンポテト、きのこのスープ、じわっと素朴な美味しいパン....。
お外で、こんなに美味しい「朝ごはん」に出会えたのは初めてかもしれない。
ようやく雨が上がって、眩しい陽射しが射し込んでくる。前日には見えなかった大きな窓からは、のどかな田んぼの風景が一望。敷地の庭には、きれいすぎない程度に手をいれた芝生にラベンダーやローズマリーの茂み。
食後に珈琲を持って来てくださったオーナーの女性とお喋り。穏やかな物腰と、くるくると動く魅力的な大きな瞳のその方は、私の母に近い年齢に見えるが、とても若々しく気取ったところが少しもない。ご主人と始めたこのペンションを、今はひとりで切り盛りされているという。なんでも受け入れてくれそうな温かい人柄につられて、自分たちのことまで口を滑らす。「いいわね、素敵ね」と言ってもらって、ほんとにそうかな、と嬉しくなる。
朝ごはん一つで、こんなにも幸せになれるなんて。誰かが丁寧に手間ひま惜しまず作ってくれるものは、本当に美味しい。気持ちまでじんわり満たされたひと時。
また行きたいと思った。
それから3日ぶりにようやく晴れたお天気のもと、益子の町をゆっくり歩いてみた。
印象的だったのは、町の人のウェルカムな態度。目が合えば自然と挨拶を交わし、話し出せばみな益子のよい所を教えてくれる。観光的なPRではなく、ただ普通に自分たちの暮らす町が好きだから、という感じで、押しつけがましくなく。
町に、そこに暮らす人の中に、共有できる伝統や固有の財産があるということが、おおらかなゆとりの理由なのか。羨ましいような。
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短い秋の小旅行。
それぞれの場所にしっかりと足をつけて暮らす人たちに出会って、小さく勇気づけられ、自分たちの居場所をよそからの目で眺めてみることができた。
家に戻り、ペットホテルにお預け&予防接種の注射付きで散々な目に遭った麦の機嫌をとりながら、「やっぱりここがいいよね」と独り言。
私たちも、私たちの場所で、やっていく。やっていこう。