旅の計画をしていると、あらためて今はなんと便利な時代になったんだろう、と思う。
旅行の手配といえば、旅行会社の窓口に行ってお願いするもの、と思っていた数年前。
いまや、パソコンの画面上だけで、飛行機のチケットからホテルのブッキングまで(それも田舎の外れの小さな宿まで)、通販感覚で簡単に取れてしまう。
使い方次第では、定価も関係ないような安さで入手もできたり。
これはとても喜ばしいこと、、なのだろう、たぶん。
今回の旅は、前半にアイルランドで6日、ロンドンに移動して近郊の町を含めて5日間。
アイルランドには、幼なじみの友人が現地の人と結婚して暮らしているので、自宅にお世話になったり、その他の町のホテル(B&B)や国内線の予約など、すぱすぱと進めてくれて、大助かり。
国際線の手配は、私が田舎暮らしなのを口実に、これも母に東京での手配を頼んでしまった。
だから、私の任務としては、せいぜいイギリスでのホテル探しくらい。
それくらいなら、と、パソコンで検索し始めてみると、これが、なんというか、情報量の多さに目がまわり、どうしてよいものやら途方にくれてしまう。
「ロンドン ホテル」と検索しただけで、予約サイトが次から次に現れる。
希望のエリアは絞り込み、それで当たってみると、Aというサイトで良さそうにみえたところが、Bというサイトでは利用者からけちょんけちょんに言われていたり。。
写真は結局どれも同じようなもので、決め手にはならない。料金は微妙に差があるらしい。
しばらく見つめていただけで、気持ちが悪くなってきた。
おまけに、正直なところ、私はまだ、この「クリックをして次に進みなさい」という指示が、怖い。
どの段階まで引き返すことが出来るのか、と思うと、やっぱり止めよう、、とぐずぐずしてしまう。(インターネットでのショッピングも、だから苦手。)
このクリックひとつで、旅の大きな要素が決められてしまうなんて。
(本来なら、現地で、自分の目で見て決めるのが一番だと思っている。
でも今回は母も一緒のため、あまり路頭で彷徨うような目には遭わせたくない。)
そんな果てしない検索作業に疲労困憊している矢先、書店である本に出会った。
それはまったく期待していなかった出会いで、ふいに目に飛び込んできた。
『
イラクサの小道の向こう 〜英国、花とくらす小さな村』(並木容子・著、アノニマスタジオ)
タイトルも中身も知らなかったけれど、大好きな
アノニマの「匂い」に誘われて手に取ると、花と緑と丘陵の景色が広がっていた。
副題にあるとおり、イギリスのコッツウォルズの村が舞台。著者は、吉祥寺で「
gente」というお花屋さんを営むフラワーデザイナー。
このなかで、著者も滞在したというB&Bは、あちこちのガイドブックでも紹介されている有名なところ。お庭はたしかにとっても美しく、ホスピタリティに溢れているようだ。
ここもいいなぁと思いつつ、パラパラと読み進めるうちに登場してきた、村にもう一つあるというB&B。こちらはまだ新しく(といっても、建物は1620年頃に建てられた石積みの家)、若い家族が経営していると書いてある。
このなかで、オーナーである方が著者に話した言葉を読んで、ここ、行きたい!と閃きが走った。
それは何気ない、なんの飾り気もない言葉だったのだけれど、その人が自分の生まれ故郷でもあるその村を、心の底から愛していることが分かるものだった。(多少の脚色はあるにせよ。)
そう思い立ってからの作業は早い。
片手に英語の辞書と、昔仕事で使用した「英文手紙」のテキストを引っぱり出して来て、予約サイトではなく、直接のアドレス宛にメールを書いた。
あまりの単語の出て来なさ加減に情けなくなりながら、一文一文、時間をかけてしたためた。
本来なら「予約をお願いします」の3行程度で済むはずだが、一言付け加えたくて、本を読んだ感想などを、なるべくシンプルに書き添えた。
受け取った相手は、その文面から、中学生(もしくはそれ以下)の女の子と母親が来るものと思っているかもしれない...(汗)
1時間ほどかけて書いた物を、エイっと送信。
そこから、返事が届くまでの待つ時間、およそ1日。
時差もあるし、仕事が忙しければ、すぐにメールは確かめないかもしれない。。
または、少々頭のおかしい人間と思われて、敬遠されてしまったかしら。。
お部屋もなかったらどうしよう。。
など、ドキドキしながら返事を待つ。
その間、私の頭の中では、お客様を迎え、もてなし、見送り、庭の手入れをし、周囲の野山を散歩し、夜は家族との時間も大切にする、この見も知らぬオーナーの日常のシーンを、ずっと思い浮かべてみていた。
どんな瞬間に、私からのメールに気づくのだろう?
もしかしたら、この待つ時間こそが、旅の醍醐味かもしれないと思う。
そして翌日、返事を見つけた時の喜び。第一希望の部屋はあいにくいっぱいだったけれど、別のお部屋なら、、といくつかの選択肢を提示してくれていた。
それは、メールではあるけれど、たしかに「人が書いてくれたお返事」だった。
瞬時に機械が自動的に返信するものではなく...
些細な事だけれど、なんだか久しぶりにドキドキした。
そして、この旅への期待がさらに膨らんだ。
自分が誇りに思う大切な場所で、家族とともに、静かに暮らしている人がいる。
それは何もイギリスでなければいけないことでもないのだけれど、そんな人に会いに行ってみる、それだけでも、旅の目的にしてもよいのかもしれない。
もちろん、インターネットには大きく助けられているけれど、私の場合、キッカケはやっぱり「紙の上」から見つかるものらしい。