連休を挟み、滞ってしまった旅の記録を続けましょう。
もうあの日々から1ヶ月以上が経つ。
今日も土曜日。あの石畳の広場には、カラフルなテントが屋根を広げる頃....。
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アイルランド上陸5日目。島の西部から東部の首都ダブリンへ。
ゴールウェイからは鉄道で移動。この道中初めての鉄道の旅は、片道3時間弱。
向かい合うシートをゆったり占領し、長閑な景色を眺めて「世界の車窓から」のテーマソングを口ずさむ(お約束・笑)。
到着したダブリン・ヒューストン駅はさすがに大都市の賑わい。駅は街の中心部からは少し離れたところにあるため、まずはタクシーで予約をしたホテルを目指す。

リフィ川という大きな川に沿って中心部へ向かう。
ヨーロッパの都市には必ずといっていいほど大きな川(運河)が流れている。パリ(セーヌ)もロンドン(テムズ)も、ここダブリンも。川の恩恵を受けて大きな都市になるということか。
街の南部のレストランや劇場などが連なる賑やかな一角にあるホテルにひとまず荷物を置いて、早速街歩き。徒歩で10分ほどで賑やかなメインストリートへ。

ここグラフトンストリートやその周辺はものすごい人の波。春休みということもあり、国内から遊びに来ている人も多そう。ブランド名を掲げる高級ショップ、ウィンドウショッピングを楽しむ人々、街角のストリートパフォーマー、クラクションを鳴らして行き交うバスに車(歩道を横断するのも一苦労)。
比較的のんびりした街巡りをしてきた後だけに、都会の喧噪に少しクラクラする。

都会の光景は、銀座や渋谷とも大差ない。それでもヨーロッパの都会の良いところは、少し歩けば緑のオアシスがありゆっくりと休めること。ダブリンにも、メインストリートを抜けた先に「セントスティーブンスグリーン」という綺麗に整備された大きな公園があり、みな芝生やベンチで思い思いにゴロリとしている。緑を見てホッとする。
リムリック近郊でも立ち寄った雑貨のデパートのような『AVOCA(アヴォカ)』でお土産選び。パッケージの可愛い珈琲やチョコレートなど。続いて珈琲豆の老舗『
Bewley's(ビューリーズ)』でもちょっと奮発した豆を相方用に。
「ケルズの書」で知られる「トリニティーカレッジ」では、アカデミックな雰囲気だけを覗き見。
ちなみに、ダブリンでは、「
ホップオン・ホップオフ」という乗り降り自由の巡回バスがあり、一日乗り放題のチケットで見どころを回れて便利。(私たちは半日ずつ2日のみの滞在だったため使用しませんでしたが、これはお得。)

翌日は土曜日。
朝いちばんに訪ねた「聖パトリック大聖堂」。アイルランド最大といわれるこの教会は、イタリアのカトリックの教会のような派手な装飾はないまでも、石造りのドーム天井やステンドグラス、床のモザイクタイルが美しく、いつまでも眺めていたいようだった。記念に聖人パトリックのお守りのようなペンダントトップなどを買う。
このあと、母としばらく別行動タイム。
ダブリンに行ったなら覗いてみたいとかねてより願っていた、ある場所へ。

「
テンプル・バー」と呼ばれる界隈は、パブやカフェのほか、ダブリンのなかでもとりわけアート色の強い個性的なショップが並ぶ若者エリア。(少し前のウラハラみたいな感じかしら。)
でも私のお目当てはそうしたショップではなく。。
雑誌で見かけたうろ覚えの情報を頼りに、石畳の通りをウロウロと。あれ、見つからないぞ、、と不安になりかけた矢先、細い路地から大きな袋を抱えて出て来た人に遭遇。袋からは新鮮なパンや野菜がのぞいてる。これこれ、間違いない!
果たして細い通路の向こう、周囲を建物に囲まれた中庭のような場所に、目指したフードマーケットが見つかった。
ここテンプル・バーでは毎週土曜日、アイルランド各地から土地土地の新鮮な食材や特産品を持ち寄るマーケットが開かれる。
旅先で、「マーケット」「市」と聞けば、立ち寄らずにはいられない性分。その国を知るのに、これ以上うってつけの方法はないと思う。
想像したよりこじんまりした会場だったけれど、あるあるある、美味しそうなアレやコレ!


野菜に果物(特にリンゴの美味しそうだったこと!)、チーズ、ワイン、オリーブやピクルス、香辛料、ハーブ、ジャム、お肉やソーセージ(その場で焼いてます!)、焼きたてパンに絞り立てジュース..... 目が眩む!
匂いにつられるようにあちこちのテントを覗き込み、夢中になって写真を撮るのを忘れた事に気づいてもう一周、さらに本腰入れて「買うぞ」モードでさらに一周。そのうち、目があえばお店の人に笑われてしまうほど、ひとりでグルグル何周もしていた。
このままお家に帰れるならばしこたま買い込むところだけど、なにしろこちらは旅の途中。おまけにその午後には飛行機に乗って移動というスケジュールのため、最終的に買い求めたのは絞り立てりんごジュースに、お昼に母と食べるパンを数種類。ジャムや瓶詰めにも相当惹かれたけれど、荷物の制限を考えると手が出せず。
それでもやっぱり、眺めるだけでもマーケットは楽しい。作ってる人の顔が直接見えるし、彼らの顔には自分たちの商品に対する誇りと自信が溢れてる。
「売ってやろう」「買ってやろう」ではなく、お互いが対等で、商品を挟んでにこやかに会話が交わされる。
同じ「モノを買う」という行為でも、そこで無造作にわら半紙にくるまれて渡されるものの方が、デパートできれいに包装されたパッケージのものより、断然価値があるように思う。
作るひとから、望むひとへ。
そのシンプルな(だけども今の時代なぜだか難しくなってる)行為が、いい。手渡される商品だって嬉しいだろう。
それにしても、ここで買ったリンゴジュースは酸味もそのままで美味しくて、パッケージも可愛くて、記念に持ち帰りたいくらいだった(液体に対して異常なまでに厳しくなった空港のチェックの際に泣く泣く手放したのが残念!)。
離ればなれに行動した母とも、公園で無事に落ち合い、急ぎ足で空港へ。
小銭がなかったために、散々待った挙げ句に乗れたバスで無情にも乗車を拒否される、、というアクシデントがあったものの(そうそう、海外のバスは小銭が必須でしたね、忘れてました)、親切で陽気なタクシードライバーに助けられ、混雑する空港へ。
緑のシャムロック印のエアリンガスに再び乗っけてもらい、6日間のアイルランド滞在もこれでおしまい。
この国の、ほんの表層の一部を垣間みただけの旅だったけれど、「特別でない日常のありきたりな風景」が、ここまで胸に焼き付いた国も、他にない。
村上春樹が紀行文のなかで「アイルランドという国の魅力は、そこを離れて始めて実感できる」といったことを書いていたけれど、そのとおりかもしれない。
日に日に時間が経っていく今でも、さわさわした風が吹けば、広大な石の大地をただ吹き抜けていた風の感触を思い出す。
「ただ、そこに在る」という圧倒的な存在感。
この国に、きっと私はこれからも、静かに魅了され続けるだろう。
旅の舞台は、イギリスへ。