まったくもって、ひょんなことから、憧れのひとに会ってしまった。
それは「会った」というより、向こうにしてみたら「一瞥をくれた」という程度でしかなかったかもしれない。
だとしても、目が合って、「こんばんは」とニコリとしてくれたのは、まぎれもない事実。
軽井沢に負けず劣らず、ここ北軽井沢も、知る人ぞ知る“文学者たちの棲む森”。
ノーベル賞受賞のO・K氏をはじめ、21世紀を代表する詩人T・S氏や、画家として女優として活躍するK姉妹(お姉さんのEさんはほぼ定住)、また若手では芥川賞を受賞したN・Y(別名ブルボンK)さんらが山荘を所有し、頻繁に訪れている(そう)。
最近はフランスに移住してしまった、お父さんも軽井沢に縁のある著名な作家I・N氏も、少し前まではよく見かけた(らしい)。
そんななかでも、私がもっとも(と言ってしまっても過言ではない)敬愛する、絵本作家でありエッセイストであるS・Yさんも、一年の大半をここで暮らし、この土地に関するエッセイも著している。
すぐ近くに住んでいることは知っていて、さりげなく散歩を装いアトリエの周辺をうろついたことはあっても、お目にかかる機会はそうそう訪れるものでもなく、なぜか彼女のお住まいに足を踏み入れたことがあり(もちろん不法にではなく、仕事として)、「作品(絵)がゴロゴロしてたよ」などとのたまう相方を「いいないいな」とひがみ続けてきた私。
彼女とは家族ぐるみのお付き合いがあり、一緒に露天風呂にまで入ったこともある、なんとも羨むべき存在の友人Yが、とうとうそんな私を見かねて「彼女の家から運び出す荷物があるから」と誘ってくれたので、ノコノコとついて行った。
感動的、となるはずの初対面は、お住まいの玄関先で、少し具合が悪かったと言うSさんは上がり框にペタリと座りこみ、私は底の抜けそうな段ボールをヨロヨロと抱えながら、ほんの数分、ほんの数語を交わしたのみ。
自己紹介はおろか、おそらく向こうの記憶にも残らない程度の、挨拶ともいえない顔合わせで、間抜けなことこの上なかったけれど、それでも実物(失礼)に会えたことは確かだ。
そして、少しハスキーボイスで(具合のせいかも?)サバサバっと飾らない(そりゃ荷物を積み出しに来た小娘に飾るも何もないが)態度の、憧れのそのひとは、やっぱり想像通りのカッコイイ女性だった。
「あなたの代表作と言われる絵本に初めて出会ったのは、たぶん幼稚園の頃で、それ以来、クタクタになるまで読み返しては、今手もとにあるのはすでに5代目くらいのはずですっ」
「絵本の他にも、数々のエッセイもほぼ一通り読み尽くし、もったいぶらず、ストレートで、鋭すぎてドキリとしたり、なのに時々泣けちゃったりする文章が大好きですっ」
「あなたがいるから北軽井沢に引っ越してきたんですっ(←ちょっと誇張)」
「今度ぜひ取材させてくださいっ(←かなり真剣)」
等々の心の声を発することもなく、すごすごと引き返してきたきた訳だが、次こそはもう一歩踏み込んでお話をしてやるのだっ、との決意を新たに、とりあえずは「憧れのひととの対面第1回」は幕を閉じたのだった。
S・Yさんのヒントはこの絵↓
ね、会ってみたいでしょ。